一般的にコンプライアンスの部署は、企業における法務部が担います。しかし、企業によっては、法務部とコンプライアンスに部署を分ける場合があります。よりよいコンプライアンスの体制構築のためには、コンプライアンスに特化した専門部署を立ち上げるべきなのでしょうか。
本記事は、コンプライアンスに関係する実務担当者に向け、体制構築のポイントを解説します。専門部署の立ち上げに、ぜひ役立ててください。
目次
コンプライアンスの担当部署とは
コンプライアンスとは、直訳すると「法令や規定の遵守」です。企業がコンプライアンスの取り組みを強化すると、社会や顧客からの信用力の向上につながります。
コンプライアンスの担当部署の役割は、企業内で企業倫理や規定が守られているか法務の立場から管理することです。また、社員への啓蒙活動の一環として、マニュアルの配布や研修の開催も行ってています。
法務部が行うのが一般的
コンプライアンスの管理や運用は、法律の知識が不可欠です。よって、一般的な企業では、法務部がコンプライアンスを対応しています。コンプライアンスの概念には、法律とは区分される倫理的な側面もありますが、業務として区分せずに対応する企業が多いのが現状です。企業によっては、総務や経理担当者が、コンプライアンスに関する業務を兼務するケースもあります。
大企業ではコンプライアンス部の立ち上げが増加
近年、上場企業や上場を目指す大企業のなかで、コンプライアンスを専門とする部署の立ち上げが増えつつあります。しかし、コンプライアンスへのコストのかけ方は、企業の経営判断に委ねられています。コンプライアンス部の必要性は、業界の特性や企業規模によって異なるため、自社の状況に合わせて組織にどう取り入れるかを検討してください。
法務部とコンプライアンス部の役割の違い
一般的に、企業のコンプライアンスは法務部が担当しますが、企業によってはコンプライアンス部を法務部とは別に作るケースもあります。それぞれの部署の役割の違いを解説します。
法務部
法務部の役割は、法律や規約の専門的な知識を活用し、企業内部で生じる紛争を防止・解決することです。業務内容は、法律に抵触するようなコンプライアンスの事柄だけではありません。法令上の問題点の検討や、契約書類の作成、交渉など多岐にわたります。企業との関連性のある訴訟問題が生じた際には、外部の弁護士や専門家などと協力して対応します。
コンプライアンス部
コンプライアンス部の役割は、企業の倫理的な観点から紛争を防止・解決することです。コンプライアンス部にもある程度の法律や規約の知識は必要ですが、法務部ほどの専門性は求められていません。しかし、法務部よりも広くビジネスや業界知識、コミュニケーション力などが必要です。社員教育をとおした、社員へのコンプライアンスの周知が業務のメインとなります。
法務部とコンプライアンス部を分けるメリット
法務部とコンプライアンス部の部署を区分すると、組織にどのような影響があるのでしょうか。メリットとデメリットを解説します。
メリット
法務部とコンプライアンス部を分けると、それぞれの専門分野に特化した業務の遂行が可能です。得意な領域に時間と手間をかけられるため、高いクオリティーの業務成果が期待できます。また、人材の採用時にも、各部門で本当に必要な資質をもつ人を採用しやすくなります。とくに、法務部門の構成要員を法律に関する有資格者にすると、外部委託のコスト削減に効果的です。
デメリット
最大の注意点は情報共有の機会が減ることです。法務部とコンプライアンス部は領域が重なる業務がありますが、部署が分かれると情報の伝達に手間がかかります。どちらか片方の部署が情報をもっていて、他方の部署と共有できていない事態になりかねません。また、重なる業務の対応をどちらの部署がするのか、責任の所在が不明瞭になる点もデメリットです。
コンプライアンス体制に必要な要素
コンプライアンス体制には、専門部署の設置、行動基準・マニュアルの作成、社員教育、社内コンプライアンスの監視・調査が必要です。それぞれの要素を詳しく解説します。
専門部署の設置
専門部署の設置は、コンプライアンスを扱う部署を設置する方法と、委員会や窓口を作る方法の2つがあります。それぞれの専門部署の特徴を解説します。
コンプライアンスを扱う部署
法務部やコンプライアンス部など、コンプライアンスを専門に扱う部署を企業に設置します。企業の業務に関する豊富な知識や経験が必要なため、コンプライアンス部を設立する場合、取締役クラスの人材が、コンプライアンス担当者としての役割を担うケースが多くあります。部署は取締役会の直下に配置し、コンプライアンス体制の推進の権限を持つ点が特徴的です。
委員会・審査機関・通報窓口
コンプライアンスの専門部署として、委員会、審査機関、通報窓口を設置する方法もあります。委員会の役割は、自社の社員のコンプライアンスへの意識向上です。審査機関は、コンプライアンスの違反報告があった場合に、処罰や対策を考える役割があります。通報窓口は、会社でのコンプライアンス違反を発見した際に、事実の報告や問題解決のための相談ができる場所です。
行動基準・マニュアル
自社で行動基準や社内ルールを作成し、文書化してマニュアルを制定します。内容は、企業の実情に応じて詳細に記載してください。業務内容に応じてとくに遵守する必要のある法律の内容を選び、従業員がとるべき行動を具体的に示すことが必要です。
守るべきルールは、社会情勢や法令改正によって変化します。常に最新のマニュアルを共有できるよう、適宜改定しましょう。
社員教育
役員や社員にコンプライアンスに関する教育をし、コンプライアンスへの意識を高めます。社員教育は、マニュアルやルールを全社員が理解し、知識を元に実際に行動に移せる内容とすることが重要です。状況に応じて外部からコンプライアンスの専門家を招き、理解度を深めると効果的です。自社のルールへの固執を防ぎ、新しい情報をアップデートするきっかけにもなります。
社内コンプライアンスの監視・調査
社長や役職を担う者を含めた全社員が、会社のコンプライアンスが遵守されているか監視・調査をします。社員がコンプライアンスのマニュアルを実践できているか、日常的に確認してください。違反が発覚した場合は、社員からの聞き取りやエビデンスの収集などから、多角的な状況の検証が重要です。違反が確実となったら、ルールにもとづいた適切な処分を検討しましょう。
コンプライアンス担当者に必要なスキル
コンプライアンス担当者には、どのようなスキルが求められるのでしょうか。業務で必要な3つのスキルを解説します。
自社の理解
コンプライアンス担当者には、自社の業務や役割に関する深い理解が必要です。自社の事業が何で、組織にはどのような役割があり、何のサービスを提供しているのかわかっていないと、的確な対応ができません。コンプライアンス担当者は企業倫理の領域だけでなく、法律も意識しながら、経営の意向を反映できるバランスの取れた知見が必要です。
法令知識
コンプライアンス担当者は、コンプライアンスの基本理念の理解が必要です。所属している業界の法令や条件について、理解しておかなければなりません。企業のコンプライアンスを社員に周知する際にも、法令知識にもとづいた内容である方が、客観性が増して説得力をもちます。業務上で生じた不明点は、必要に応じて社外への弁護士に相談しながら、業務で必要な知識を身につけます。
コミュニケーション
コンプライアンス担当者の役割は、不正の発見や処罰だけではありません。外部と連携し、社内の相談役としても寄与します。したがって、部署や取引先などの関係各所との、円滑なコミュニケーション力が求められます。信頼関係の構築は、何か問題が生じた際に問題が隠蔽されるのを防ぎ、企業価値の損失を軽減するうえでも有用です。
コンプライアンス体制を整えるポイント
自社で新たにコンプライアンス体制を整える際には、いくつかのポイントがあります。とくに配慮すべき3つの点を解説します。
部署の設置を最優先で行う
社内にコンプライアンスに関する部署がない場合、設置を最優先でおこなってください。専門部署、委員会、窓口を設置することで、組織の業務の適正を確保するための体制構築の基盤ができます。まずは、企業内の内部統制を発揮させる体制を整備し、コンプライアンス体制の機能へとつなげてください。
トップ主導で啓蒙する
企業や社員規模とは関係なく、トップ主導でのコンプライアンスの啓蒙が重要です。まずは経営者自身がコンプライアンスの大切さを説き、コンプライアンスの概念を浸透させることが社員に大きな影響を与えるきっかけになります。不正や過失による違反を未然に防ぎ、結果として企業価値や信頼性アップも期待できます。
外部への委託も有効
企業の規模によっては、コストや人材不足の関係で、コンプライアンスの専門部署を設置できない場合があります。したがって、企業の状況に応じて、外部への委託も検討してください。外部に委託する場合は、税理士、コンサルタント、弁護士など、企業で生じる問題や業務に関して、専門家と継続的に協力しあえる関係作りが重要です。
まとめ
企業経営において、部署を法務部とコンプライアンス部に分けると、専門に特化した業務の遂行が可能です。また、採用時にもそれぞれの部署にとって適切な人材を採用しやすくなります。
一方、部署を区分すると情報共有がしにくくなる可能性もあります。コンプライアンス体制の構築には、専門部署、委員会、窓口などの設置を最優先し、トップ主導での啓蒙が大切です。状況に応じて、外部への委託も検討してください。
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