「昨今メディアなどでも取り上げられることが増えている『企業コンプライアンス』という言葉の意味は漠然とわかるが、説明を求められると自信がない」と今更聞けないという方もおられるのではないでしょうか?
コンプライアンスという言葉は日本語では法令遵守と翻訳されます。しかし近年、企業に対して求められるコンプライアンスは、単純な法令遵守の範囲にとどまらず、社会的責任としての広義の意味を持ちます。
本記事では、企業コンプライアンスの意味と重要性、企業コンプライアンス対策として実施しなくてはいけない3つの取組み、そして企業コンプライアンスを見直すための3つの方法について解説していきます。
企業コンプライアンスは社会に対しての責任を帯びる
企業コンプライアンスとは、企業が法律や倫理を遵守することを指します。コンプライアンス(compliance)は英語で「命令や要求に従う」という意味を持ちますが、最近では企業が守るべき社会的責任まで解釈が拡大しています。
企業の不祥事に対して社会から向けられる目が厳しくなっている昨今、大企業であってもたった一人の社員の不祥事で企業のブランドイメージが大きく傷つき、大きな損失に繋がることも珍しくありません。
コンプライアンスと深く結びつき、企業が社会に対して守るべきとされる倫理やCSRとはどういうものか、詳しく見ていきましょう。
CSRとはどういうものなのか
企業の社会的責任(略称CSR、Corporate Social Responsibility)とは、企業が倫理的観点から自社の組織活動が社会へ与える影響に対して、自主的に責任意識を持ち、社会に貢献していく責任を指します。
また、企業経営の理念の根幹において、「企業自身の永続性と持続可能な未来を両立させ、社会とともに築いていく」活動をCSR活動と呼びます。
CSR活動の内容は環境問題に対する企業貢献や、地域振興、雇用創出、女性の権利を含む人権問題など、幅広い分野に広がっています。
「持続可能な未来に対する企業の社会貢献」という点において、CSRはコンプライアンスとは切っても切れない存在です。
CSRは慈善事業ではなく、企業が果たすべき社会的責任の一環です。特に社会との調和に重きを置く傾向が強い日本企業では、近年、従業員の品質向上としてCSR活動を強化する企業も増えてきています。
その背景には、従業員の不祥事は企業の責任であるという日本社会の強い価値観があり、万一の場合、企業だけでなくステークホルダーまで大きな損失を及ぼすためです。
この従業員の品質に問題が発生し、コンプライアンス違反が発生した結果、閉店に追い込まれたサプライチェーンが発生したのが昨今の「バイトテロ」です。バイトテロによって社会から厳しく批判を受けた結果、大きな損失に繋がった企業は少なくありません。
企業に求められるイメージはどういうものなのか
近年特に、企業にはクリーンであることを社会が強く求める傾向にあります。そのため、万一企業の不祥事が発生した場合、企業が受けるダメージは計り知れないものがあります。
上場している大企業も、経営の屋台骨を揺るがされるような大きな損失に繋がる事例もあります。東京商工リサーチの統計によると、コンプライアンス違反が一因で倒産に至った例は2018年度で194件にものぼり、直近3年は高止まりしています。
不祥事に対する社会の攻撃的な意識は大変強く、謝罪や対応、解決案が不足だと判断されれば、何年経っても風化することはありません。一度失墜した信頼を取り戻すことは大変難しく、企業努力で損失を取り戻せなければ、最終的には倒産に繋がります。
近年コンプライアンス違反が社会に衝撃を与えた例では、電通社員過労自殺事件や東洋ゴム免震ゴム偽装事件でしょう。不適切な労務管理や製品偽装は、社会に対する責任を果たすべき企業として深刻なコンプライアンス違反といえます。
コンプライアンス違反を起こした企業が以前の違反前のイメージを取り戻すには、大変な努力を必要とします。そのため、法令に違反していなくても意識的にクリーンであることを打ち出し、それを保証した活動が必要です。
経営倫理・企業倫理の重視
企業倫理とは企業活動における意思決定の根幹となるものです。多くの人に影響を与える企業活動は常に高い倫理性を持って行われるべきであり、その実践においては個人のモラルが最終的な問題となっています。
企業倫理の徹底が経営者から末端の社員まで行われ、個々人の倫理観による正しい判断を行うという考えが浸透することで、不祥事を起こさないよう意識を引き締めて保つ役割を持ちます。
企業倫理はコンプライアンスと混同されることがありますが、コンプライアンスが法の立場であり、企業倫理は道徳の立場にある考え方です。
法と道徳は密接な関係にあり、各種の法令や社則に対し遵守する体制が整っている企業は、基本的に倫理観も高く保たれています。
義務的にではなく個人のモラルとして守るものという考え方
個人のモラルとして企業コンプライアンスを考える土壌を作るには、まず組織として以下の3つを実行する必要があります。
・個々人の倫理観が最終的なコンプライアンス意識に繋がることを浸透させる
・ハラスメントへの対処を徹底する
・不正な行動に対する内部告発の窓口を設ける
会社を動かしている要素であるということを意識し、自分の行動がひいては企業全体に影響を及ぼすということを理解した上で、一人ひとりが倫理的な判断を以って行動するという考えを浸透させるには、企業組織としてどう取り組むべきか見ていきましょう。
個々人の倫理観が最終的なコンプライアンスを遵守する
守れと命令されたから守るという消極的かつ受動的な遵守は、コンプライアンス意識としては不適切です。
強制によって義務的に遵守していると、自主的に責任意識を持つという企業コンプライアンスとして大切な部分にブレが生じて、不祥事を引き起こす原因になるからです。企業全体としてコンプライアンスを打ち出していても、最終的には現場の個々人の倫理観による判断になります。
コンプライアンスに違反することで受ける企業のダメージはもちろん、遵守することによって得られる以下の3つについても理解を深めるべきです。
・全体がコンプライアンス意識を持つことで、自分自身の権利も守られる
・コンプライアンスが徹底することで企業イメージが向上し、利益にも繋がる
・風通しが良い企業風土が育成され、不正や不祥事が生じにくくなる
社員に対するコンプライアンス教育は一度ではなく定期的に行い、コンプライアンスを意識して活動することによって得られたメリットについても開示していくことで、積極的かつ自主的な遵守が期待できます。
ハラスメントへの対処を徹底する
ハラスメントを放置して大きな問題に発展した例は過去にも多数存在してます。パワハラ、セクハラなどの人格や心を著しく傷つけ貶めるハラスメント行為に徹底して対処することは、社員と職場環境を守るコンプライアンスです。
ハラスメントを放置する職場は社員の不満が膨らむだけでなく、正常なコミュニケーションが阻害されて、新しい提案の機会を奪い、間違っていると感じたことを告発することができず、業務は停滞し、不正の温床となります。
不当な扱いを訴えても聞いてもらえない、改善して守ってもらえないと社員が感じることで、モラルとコンプライアンス意識、仕事へのモチベーションが大きく低下します。
ハラスメントに対しては毅然とした対処を行い、不当な行為で他の社員を傷つける存在を排除して人間関係を正常に保つことで、社員は企業への信頼と安心を得てモラルの高い職場づくりに繋がります。
万一ハラスメントを放置して労働基準監督署の指導を受けたり、被害者から告訴されて訴訟に発展した場合、企業は社会的な信用を失墜します。
仮に問題を是正しても、社員を守らない不誠実な企業であるというイメージがのちのちまで付きまとうことになるでしょう。
不正な行動に対する内部告発の窓口を設ける
不正行為に対し、内部告発は非常に有効な摘発手段です。しかし、告発者を保護するシステムや、コンプライアンスとは無関係ないわゆる「告げ口」の温床にならないよう、運用は慎重に行わねばなりません。
内部告発の窓口を設置する場合は、以下の3点に注意して運用する必要があります。
・告発は必ず匿名で受け付ける
・不正な行動を告発した人の保護を徹底する
・統一したガイドラインのもと、公正・公平に判断し対応する
告発したことによる査定のアップなどを目的とすれば、コンプライアンス意識とは掛け離れてしまいます。公正・公平な判断のため、匿名を徹底します。
一方で、不正を告発した人が不利益を被ることがあれば、せっかく設置した窓口が正常に運用されず、不正の摘発が行行えません。告発が匿名であっても保護を求められた場合、運用者は告発した人を保護する必要があります。
「内部告発は同僚に対する裏切り行為ではないか」という誤った認識を持たないよう、コンプライアンス教育の中でも内部告発についての説明を徹底していく必要があります。
内部告発は自浄作用として大切なプロセスです。不正なことをしている人が同じ職場にいるということは、モラルだけでなく仕事に対するモチベーションや自尊心も低下させます。
経営者がもっとも企業倫理を強く意識するべき理由
コンプライアンスに対し、経営者や企業の意思決定権を持つ経営者や役員は、他の従業員とは異なる4つの役割を持ちます。
・コンプライアンス違反を防止するための仕組み作りと運用
・重大な不祥事が発生した場合、速やかに影響を最小限にとどめるための施策を打つ
・コンプライアンス違反が発生したあと、可能な限り早期の企業活動の再開の準備をする
・コンプライアンス違反に対する対処と事後の責任を負う
企業コンプライアンスを経営に運用し、最終的に万一の場合は企業生命を保つためのあらゆる責任を負う立場であることを意識して、コンプライアンスと向き合う必要があります。
中小企業の場合、社風として社長の考え方がもっとも強く影響することから、経営者が一番強く倫理観を持ち、コンプライアンス経営に臨まなければいけません。
社内のコンプライアンスの見直しと是正の方法
社内のコンプライアンス意識は定期的に見直し、現在の状況に合わせてコンプライアンス意識の徹底を行う必要があります。
昨今、特にステークホルダーに限らず社会からも営利活動を行う企業へのクリーンなイメージが強く求められています。また、社会が求める企業のCSR活動の内容も、時流に合わせ、時々刻々と変化します。
そのため、法令遵守に限らず、社会的責任としてのコンプライアンスが保たれているか常に意識していく必要があります。社内のコンプライアンスの見直しと、問題が見つかった場合の是正の方法について解説していきます。
コンプライアンス意識の見直しの方法
まず、従業員一人ひとりのコンプライアンス意識がどのように保たれているのかを把握し、現状における問題点を洗い出すと同時に、個々人にコンプライアンス意識を再認識させます。具体的な方法としては以下の3つをバランス良く取り入れて、企業全体に浸透させます。
・定期的に従業員に対して匿名のアンケートを行う
・コンプライアンス窓口の担当者による面談を設定する
・コンプライアンス違反のリスクを理解するためのセミナーを行う
大切なのはコンプライアンスを守るのは一人ひとりの意識であることを全員が理解することと、万一違反を見つけた場合告発した人が守られることを約束することです。
・定期的に匿名のアンケートを行う
コンプライアンス違反の兆候や発生を早い段階で発見するのに重要な方法です。 匿名であり秘密厳守を約束することで、窓口にも告発しにくい内容を洗い出すことができます。
・コンプライアンス窓口の担当者による面談を設定する
上長では言い難い内容を少なからず含むため、コンプライアンスについて窓口となっている担当者による面談を設定することで、職場における立場や空気を考慮せずに訴え出る場所を用意します。
・コンプライアンス違反のリスクを理解するためのセミナーを行う
パンフレットやWebサイトでは日常業務の忙しさから読まない人が出てしまいます。そのため、しっかりとセミナーなどを開催し、違反した場合に企業全体が背負うことになるリスクに対する意識を徹底します。
外部からのコンサルや調査を入れるべき理由
内部監査は非常に多くの内容を監視する必要があり、コンプライアンスもその一つです。しかし、リスクマネジメントとして効果的ですが、運用を誤ると逆効果になってしまいます。
内部監査はコンプライアンス違反に対して正確に迅速に事実関係を把握して、損害の拡大を防ぐために運用するべきであり、責任問題に重きをおいて追求を急ぐと、責任の所在を巡って押し付け合いになり、調査を阻害することになります。
加えて企業規模によっては内部監査人も監査を専門に行うわけではないため、どうしても判断が甘くなってしまうことがあります。
定期的に外部からコンプライアンスに関するコンサルを入れることで「今のやり方は正しいのか」という気付きのきっかけを得るだけでなく、外からの目が見ているという緊張感を保つことができます。
また、コンプライアンスの問題は内部からだけとは限りません。反社会的勢力などの不正な利益を求める存在からのリスクを回避するのもコンプライアンスのあり方です。
外部に関しては弊社のRoboRoboリスクチェックのような反社チェックツールを活用すると、コンプライアンスに関するチェック・管理がしやすくなります。 (反社チェックツールについては以下のページを参照)
通常のチェックツールではキーワードに関連した情報を最終的に人間がすべてチェックする必要がありましたが、RoboRoboリスクチェックにはAIによって担当者が注目すべき情報を整理し強調する特許出願中の機能が実装されています。
そのため、企業のコンプライアンスチェックに掛かる負荷が軽くなり、的確な判断が行うことが出来ます。
コンプライアンスの考え方は企業のあり方でもある
企業コンプライアンスとは一体どういうものか、おわかりいただけたでしょうか?今や企業コンプライアンスとは、経営にも深く影響を与えるものであり、コンプライアンスに対する考え方は、企業のあり方そのものでもあります。
法令遵守の枠を超え、社会倫理からさらには社会貢献までを含むコンプライアンスは、営利活動を行う組織として「企業としてあるべき姿」であり、企業倫理・経営倫理はもちろん、コンプライアンスを実現するための手段としての内部統制にも影響を及ぼします。
社会に対して責任を果たし、社内を健全に保つためにコンプライアンスをしっかりと考えていくことは、より良い社会との調和と企業存続に繋がります。結果として反社会的勢力などの介入を防ぎ、企業内をクリーンに保ち、働きやすい環境を作ることになるのです。
コンプライアンスとは企業のあり方であるということを意識し、経営者から末端の社員まで、法令や社則を守るという考えから踏み込み、倫理観を持って企業価値を高める考え方を保つ必要があります。