「コンプライアンス」の言葉の意味は「法令遵守」です。しかし、コンプライアンスには、法律を守るだけではなく、社会的規範・モラル・ルールなどの意味も含まれます。社内のコンプライアンスで悩んでいる担当者も多いのではないでしょうか。この記事では、コンプライアンスの基礎や事例を解説します。社内のコンプライアンス策定に役立ててください。
目次
法令遵守|コンプライアンスとは?
コンプライアンスとは、もともと「命令に従うこと」を意味します。「人の願いを受け入れる」と訳されることもあります。ビジネスでは、「法令遵守」を意味する言葉として使われてきましたが、人としての倫理や社会規範といった意味を含む言葉へと進化しました。
コンプライアンスに違反しても法律に反していない限り、処罰されることは稀です。しかし、コンプライアンスを守ることは、社内・社会の健全化に役立ちます。
コンプライアンスとCSR
コンプライアンスの根幹を支えるのが「CSR」です。ここでは、CSRの概要とコンプライアンスとの関連について解説します。
CSR(corporate social responsibility)とは
CSRとは、企業が活動するにあたって担うべき組織としての社会的責任です。CSRにおける企業の社会的責任は、雇用者として従業員への責任やユーザーへの社会的配慮、株主への利益配分、地球環境への配慮など幅広い内容があげられます。企業によって形態が異なるため、企業ごとに自主的責任を作り上げなければなりません。
CSRに関連する3項目
CSRに関連する項目は、企業倫理、コーポレートガバナンス・内部統制、SDGsの3つです。それぞれについて解説します。
企業倫理
企業倫理は、企業活動の根本的考え方であり、企業活動を行ううえで守らなければならない重要な考え方でもあります。法令の範囲にとどまらず、自然保護や社会貢献、人権擁護など、企業が社会的責任を果たすための活動を自ら規定しなければなりません。企業全体の考え方を示したものであり、企業の統率・仕組み・運営方法も企業倫理に含まれます。
コーポレートガバナンス・内部統制
コーポレートガバナンスは、法令遵守のためにモニタリングやチェックを行う企業内の体制です。内部統制は、企業が自発的に内部を統制することをさします。コンプライアンスを遵守し実現するためには、コーポレートガバナンスや内部統制が重要になります。コンプライアンス遵守を維持するためにも必要です。
SDGs
SDGsは、持続可能な開発目標です。2015年9月に国連のサミットで採択されています。実現を目指す目標は17あり、代表的なものは「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「全ての人に健康と福祉を」などです。CSR達成の基準として、SDGsに取り組む企業も増えていています。
コンプライアンスとCSR
CSRに関連する項目をとらえることで、CSRを遂行し企業の社会的責任を果たすためには、コンプライアンスが根幹であることがわかります。CSRの視点からみると、コンプライアンスは法令遵守だけではありません。企業の関係者や地域社会などに対して、社会的責任を果たすための規範や取り組みまでを指します。
コンプライアンス遵守が求められる理由
コンプライアンス遵守は企業そのものの存在にも関わります。ここでは、コンプライアンス遵守が求められる理由を解説します。
コンプライアンス違反による倒産の実状
コンプライアンス違反が原因で倒産する企業は、年間200件を超えています。2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて200件を下回りましたが、それでも9年ぶりのことでした。
※参考:コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2020年度)|帝国データバンク
コンプライアンス遵守が重視される背景
企業活動で、コンプライアンスが重要視されるようになったのは、2000年代に入ってからです。企業責任が求められるようになったきっかけもあります。自動車メーカーやトラックメーカーによる相次ぐリコール隠しや、食肉偽装問題、耐震偽装問題などです。
企業の不祥事より、2006年に施行された会社法では、内部統制システムの構築が義務付けされています。誰もがSNSなどで情報発信しやすくなり、社会情勢や経済格差の不満、ストレスが蓄積されているのが現状です。コンプライアンスの遵守により、そのはけ口に利用されることを避けなくてはなりません。
コンプライアンス違反の原因と対策
コンプライアンス違反には、原因があります。原因が分かれば対策も講じられるためここで解説します。
意図的なコンプライアンス違反
意図的なコンプライアンス違反とは、違反であることを認識しながら企業活動を行っていることです。代表的なものは、リコール隠しや不正経理、製品偽装などとなります。問題なのは、意図的なコンプライアンス違反が、企業内の慣習になっていたり、伝統化されていたりする場合です。対策としては、従業員のコンプライアンス意識を高めていくことが基本となります。体制づくりとしては、匿名性を高めた相談・通報窓口を設けるなどです。
無自覚なコンプライアンス違反
無自覚なコンプライアンス違反は、従業員の責任感や貢献したいという思いから発生する特徴があります。上司の承認を得ずに無報酬の残業をしたり、無報酬の休日出勤をしたりすることも無自覚なコンプライアンス違反です。常態化すると、企業が労働基準法違反に問われるかもしれません。ブラック企業の烙印を押されないためにも、従業員へのコンプライアンス意識の啓蒙を図りましょう。企業と従業員のデメリットを伝えることも効果的です。
不注意によるコンプライアンス違反
不注意によるコンプライアンス違反は、従業員のみならず、経営陣でも起こりうる可能性があります。企業にとって最も警戒しなければならない活動であり、個人情報や企業情報の流出につながるのです。
【不注意によるコンプライアンス違反の例】
・就業後の飲み会などで業務関係の話をする
・テレワークのために企業情報を持ち出す
・社有のデバイスで私的なインターネットを利用する
対策方法は、社員研修や多様な働き方に対応するシステムの改善とセキュリティの向上です。
コンプライアンス違反の事例
コンプライアンス遵守の意識を高めるため、違反事例を知ることも大切です。ここでは、コンプライアンス違反の事例を紹介します。
情報漏洩|顧客情報の流出
通信教育サービス大手の顧客情報流出は、2014年に発覚しました。最大3,500万件もの顧客情報が流出していますが、顧客からの問い合わせがあるまで、企業側は気付かなかったようです。顧客情報の流出の原因は、グループ企業で勤めていたエンジニアによるものでした。顧客情報流出により、事件発覚後の決算で、136億円もの赤字となっています。
粉飾決算|悪質な倒産
格安旅行会社が、2017年3月に自己破産を申請し突然倒産しました。旅行中の顧客を残したままの悪質な倒産です。関連企業2社も同時倒産し、負債総額は127億円に上っています。コンプライアンス違反である粉飾決算は、国際航空運送協会の会員資格を守るためと、金融機関からの借入を起こすためです。元社長は詐欺容疑で逮捕されました。
食品偽装|賞味期限切れ原材料使用と隠匿
2007年1月に食品会社の食品偽装が発覚しました。コンプライアンス違反の内容は、シュークリームを作る工場で、賞味期限切れの原材料を使っていたことと、すぐに公表せずに隠蔽しようとしたことです。企業は社会的信用を大きく損ない、洋菓子店の営業を一時休止しました。特別損失は140億円に達しています。
著作権侵害|組織ぐるみで不正コピー
2001年に司法試験予備校を運営する企業の著作権侵害が発覚しました。コンプライアンス違反の内容は、組織ぐるみでソフトウェアを不正コピーしていたことです。Microsoft社を含む3社から著作権侵害として訴えられています。結果として、損害賠償金8,500万円の支払いを命じられました。
不適切な労務管理【1】過労やハラスメントによる自殺
2017年12月、大手不動産会社社員が過労死自殺しました。2015年12月には 大手広告会社社員が、パワーハラスメントと業務量増大による心理的ストレスにより、自殺しています。不適切な労務管理によりコンプライアンス違反となり、重大な事件を招いた事例です。
不適切な労務管理【2】残業代の未払い
2019年1月には、大手自動車メーカーによる7億円の残業代未払いが発覚しました。コンプライアンス違反の内容として、残業代の未払いはもちろんですが、2018年1月に問題が発覚しているにも関わらず、公表していなかったことです。残業代は支払っていますが、企業の姿勢が大きな問題となり社会的信用も損ないました。
コンプライアンス違反を防止するための4つの取り組み
コンプライアンス違反を防止するためには、相応の取り組みが必要です。ここでは代表的な取り組みを4つ紹介します。
社内のリスクを洗い出し対策を講じる
コンプライアンス違反は、普段から当然のように行っていて、習慣化された企業活動が深く関わっている場合もあります。改善するために、社内リスクを洗い出して対処することが大切です。従業員にヒアリングを行い、残業の状態や曖昧な判断基準、時代錯誤になっているルールなどを確認するとよいでしょう。
社内教育を徹底する
コンプライアンスについての研修、コンプライアンス違反の事例を社員と共有することなどが有効です。業務内容や役職によって、守らなければならないコンプライアンスの内容が異なります。業務内容ごと、役職ごとの社員教育を実施すれば、より効果を高められるでしょう。
コンプライアンスプログラムを策定、社内外に周知する
コンプライアンスプログラムを策定し、社内外に周知することもコンプライアンス違反を防止する効果が期待できます。コンプライアンスプログラムとは、 法令を遵守しコンプライアンスを守った企業活動をするための自主的な枠組みや計画です。作成したコンプライアンスプログラムを社内に浸透させ、取引先などの外部に周知することが大切です。
内部通報者を守る体制を整える
企業は内部通報をした従業員を保護しなければなりません。内部通報者は、コンプライアンスを守った企業活動に欠かせない存在です。しかし、内部通報者は不利益を被る可能性が高いことが現状となっています。企業は、徹底した内部通報者保護の体制を整えなければなりません。
まとめ
企業はコンプライアンスの遵守が求められています。コンプライアンス違反による重大事件で被害を被った市民は少なくありません。コンプライアンスを遵守できない企業は、発展も望めないでしょう。
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