SNSの普及によって容易に情報を拡散できる近年では、小さな不祥事でも企業に大きな損害を与える可能性を孕んでいます。企業の社会的責任(CSR)への意識も高まりつつあり、企業運営においてコンプライアンス遵守がより一層重要視されるようになりました。
しかし、一概にコンプライアンス遵守と言われても、「定義や必要な理由を知らない」「具体的な内容や取り組み方法がわからない」という方も多いかと思われます。
そこで今回は、コンプライアンス遵守の意味や、内部体制の整え方・違反事例・チェックの自動化まで、具体例とともに詳しく解説します。
最後によくある質問についても併せてご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
コンプライアンス遵守の意味とは
コンプライアンス(compliance)とは、直訳すると「追従性」という意味になり、「何かに従う・命令に応じる」といった意味になりますが、ビジネスでは「法令遵守(順守)」と訳されることがほとんどです。
「法令」とは、一般的に以下4つを意味します。
- 法律
- 施行令
- 条例
- 施行規則
「法令遵守」といっても、「上記4つの項目を守れば良い」という訳ではありません。「法令遵守」は、「倫理的な面や社会的規範から逸脱することなく事業を遂行する」と定義付けができ、ジェンダー平等やハラスメントなど、現在の法律に明文化されていないようなことでも、社会的倫理・社会的規範に従った適切な判断が求められます。
上記のような社会が求める判断は、時代の移り変わりや社会情勢によって大きく変化するため、定期的なコンプライアンスの見直しが必要になります。
また、コンプライアンスには種類があり、大きく以下の5つに分類できると言う点も覚えておきましょう。
- 消費者に対するコンプライアンス(誇大広告・数値偽装など)
- 投資家・マーケットに対するコンプライアンス(インサイダー取引・カルテルなど)
- 国家・政府に対するコンプライアンス(脱税など)
- 地域社会に対するコンプライアンス(環境汚染など)
- 従業員・労働者に対するコンプライアンス(ハラスメント・過労など)
コンプライアンス遵守の徹底が求められるようになった背景
近年コンプライアンス遵守の徹底が求められつつある背景として、主に以下の3つの理由が挙げられます。
- SNSの普及による情報発信社会への変化
- 不安定な社会情勢や経済格差の拡大
- 企業の社会的責任(CSR)意識の高まり
上記の背景を知ることで、コンプライアンス遵守を徹底する必要性をより深く理解していただけるかと思います。
SNSの普及による情報発信社会
2020年時点の総務省による調査において、SNSの利用率は全年齢では83.8%、20代に至っては90%を超えていることがわかりました。国民の大半がSNSを日常的に利用している現代はまさしく「情報発信型社会」と言えるでしょう。
この情報発信型社会では、誰でも手軽に情報を拡散できるため、小さなコンプライアンス違反や不祥事、利用者の些細な不満でも企業に大きな不利益を与える可能性があります。
Twitterの実名利用率は23.5%と言われており、大半のユーザーが匿名で利用している状況と言えます。匿名で情報発信ができるということは、内部告発等のハードルも低いと言えるため、不祥事を隠蔽した場合でも、情報が外部に流出する可能性が高くなるでしょう。
不安定な社会情勢や経済格差
2022年に起きた社会情勢の変化や経済問題として、主に以下の4つが挙げられます。
- 新型コロナウイルスの流行
- ウクライナでの戦争
- 米国の金利上げによる急激な円安
- 物価高(インフレ)
上記のように、日常が大きく変化し続けている現代社会において、人々はストレスや疲れを感じていると言えるでしょう。これにより、今までは問題とならなかった事案でもコンプライアンス違反となる可能性があります。
「人の不幸は蜜の味」ということわざがあるように、企業の不祥事はいわゆる「ストレス発散」として批判を受ける可能性が高くなるため、注意が必要です。
企業の社会的責任(CSR)意識の高まり
企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)とは、一般的に、利益至上主義へ極端に傾倒せず、社会の要請等へ積極的に応じることを指します。
現状多くの企業が取り組んでいる例として、以下の4つが挙げられます。
- 環境問題への取り組み
- 雇用の創出
- 消費者の保護
- 地域への貢献
コンプライアンス遵守は徹底する必要があるのに対し、CSRを果たす度合いは、あくまで企業の積極性に委ねられます。CSRとコンプライアンスは混同されることが多いですが、CSRの根底にコンプライアンスがあると考えると良いでしょう。
コンプライアンス遵守の取り組み手順
コンプライアンス遵守は、必要性を理解するだけでなく、企業の積極的な取り組みが必要不可欠です。ここからは、コンプライアンス遵守の具体的な取り組み手順として、以下の3つをご紹介します。
- 企業行動規範の策定
- コンプライアンス体制の整備
- コンプライアンス教育の実施
企業行動規範の策定
社内研修において、社員(従業員)にコンプライアンスの定義を説明したとしても、効果は大きくないと予想されます。より効果的にコンプライアンスを遵守させるためには、具体的な企業行動規範の策定が必要不可欠になります。
企業行動規範の存在によって、社員が判断に迷った際に、「参照できる行動の基準」ができるため、社員の独断によるコンプライアンス違反を防ぎやすくなります。
具体的な企業行動規範を4つ紹介します。
- 法令に沿った行動であるか
- 他人に話す際に後ろめたいと感じない行動であるか
- 社会的倫理に反さない行動であるか
- 自分がその行動を受けた際、問題を感じない行動であるか
上記のような企業行動規範を策定し、社員が頻繁に目を通す場所に掲示する・配布するなど、積極的な対策が必要です。
この後ご紹介する「コンプライアンス教育の実施」の前に、第一に上記の「企業行動規範の策定」が必要となります。
コンプライアンス体制を整える
コンプライアンス遵守の規範・方針の策定が完了した場合、次にコンプライアンス体制の整備・推進が必要です。小規模の事業であれば、組織を構築する必要性は低いと言えますが、ある程度の規模の場合、組織的にコンプライアンス遵守を推進する必要があります。
具体的な整備・推進の例として、以下の4つが挙げられます。
- コンプライアンス専門の社員相談窓口を設置する
- 経営陣をトップとしたコンプライアンス専門の委員会を設置し、一定期間(四半期など)ごとに委員会内での協議を行う
- 部署・事業所ごとにコンプライアンスの教育担当者・責任者の任命をする
- 定期的なコンプライアンスに関する社内研修を実施する
コンプライアンス遵守の徹底が求められるようになった背景でも紹介したように、コンプライアンスが適用される範囲は日々変化しています。変化へ柔軟に対応するためにも、定期的なコンプライアンス研修の実施・推進組織の設立が大切です。
コンプライアンス教育の実施
社内方針の策定・組織的な推進体制の構築の次に必要となるのが、社員への教育です。研修の必要性はご理解いただけたかと思いますので、具体的な教育方法をご紹介します。
一度の社内研修で方針・社内規範を全社員に理解していただくことは不可能に近いため、継続的な研修の必要があります。
しかし、毎回同じ内容の研修を繰り返すと、聞く気が失せる社員も出てくると予想されます。そのため、以下4つのような工夫を施すとよいでしょう。
- 研修の際に紹介する事例を変える
- ただ講習を行うだけでなく、社員への問いかけも行う
- 研修を行って欲しい項目について、社員へアンケートを行う
- 顧問弁護士などの有識者に研修を依頼する
また、全社員がコンプライアンスの社内方針を知る必要があるため、新入社員・中途採用で入社した社員がもれなく研修が受けられるよう、入社時の教育プログラムに研修内容を盛り込むことも重要です。
具体的なコンプライアンス違反事例
より徹底したコンプライアンス遵守を実現するためにも、具体的な違反事例を知ることが大切です。ここからは、具体的なコンプライアンス違反事例として、以下の4つをご紹介します。
- 労働問題
- 法令違反
- 不正経理
- 情報漏洩
労働問題
労働問題のコンプライアンス違反とは、過労・賃金未払い・セクハラなどの各種ハラスメントなどの雇用者によってもたらされた社員への不利益が該当します。
いわゆる「サービス残業」と呼ばれる賃金未払いは、平成31年度(令和元年度)の厚生労働省の調査では、1,611社もの企業が是正勧告を受けています。もちろん、企業は社員の労働に対してその対価を支払う義務がありますので、賃金未払いは重大なコンプライアンス違反です。しかし、企業と労働者の認識の行き違いによってサービス残業が発生するケースもあるため、企業には労働時間の徹底した管理体制を構築する責任があります。
また、残業代をしっかり払っていたとしても、過剰なノルマ設定などによる過労は、重大なコンプライアンス違反となります。
過労による事件として有名なのが、2015年に起きたD社社員の過労死事件です。新入社員のAさんがD社での慢性的な長時間労働により、入社して1年5ヶ月目で自殺した本事件では、Aさんのご両親がD社に対し損害賠償請求を起こし、結果的に1億6,800万円の損害賠償で和解となりました。
過労によるコンプライアンス違反は、社員への身体的・精神的負担や、遺族からの損害賠償請求だけでなく、企業イメージの大幅な低下を招くため、徹底した体制管理が必要です。
法令違反
法令違反のコンプライアンス違反とは、著作権法違反や食品衛生法違反のようなものが該当します。
法令違反では、アウトラインが明確に定められており、少しでも違反した場合、大きく社会からの反発を受けることになります。些細な法令違反でも、「ちりが積もれば山となる」と言うように、後に重大な法令違反となる可能性を孕んでいるため、コンプライアンスの中でも特に重要視が必要です。
法令違反で有名な事案として、2015年に問題となった、某自動車メーカーの特定車両が排出ガスの法令違反をしていた事案が挙げられます。検査時のみ排出ガスを基準値に抑え、通常走行時は基準値を超えてガスを排出をするという不正ソフトウェアを搭載していることが発覚し、テレビニュースやネットニュースで大々的に報道されました。
日本国における当事案において、結果的に企業に対する法的措置はなかったものの、企業イメージの大幅な低下を招きました。
不正経理
不正経理のコンプライアンス違反とは、業務上横領・架空請求・粉飾決算のようなものが該当します。
不正経理では、被害範囲が自社だけにとどまらず、関連の企業や取引先・関係者まで拡大します。発覚した場合、企業に莫大な損害が発生することが多く、経営破綻に陥るケースも少なくありません。
不正経理の有名な事件として、2017年に某格安航空会社が起こした粉飾決算があります。利用客が現地に取り残されているのにも関わらず、突然自己破産申請をし、破産しました。その前に倒産した関連会社を合わせた負債額は約130億円となります。元社長は決算の際に粉飾決算をしていたため、後に詐欺容疑で逮捕となりました。
不正経理の対策法を講じることは必要不可欠と言えるでしょう。効果的な対策法として、以下2つが挙げられます。
- 入出金や経費処理が独断でできないようにするための承認プロセルの導入
- 監査による経理のダブルチェック
不正経理は、経営破綻という最悪のケースに最も近いコンプライアンス違反であるため、絶対に軽視しないでください。
情報漏洩
情報漏洩のコンプライアンス違反とは、インサイダー取引や個人情報の流出のようなものが該当します。
情報漏洩は、企業への損害賠償請求だけでなく、企業イメージ・信頼を大幅に低下させる大きな原因となるため、注意が必要です。一度信頼を失うと、取り返すのに相当な時間と企業努力が必要になるため、未然に防ぐことが大切と言えます。
情報漏洩の有名な事件として、2014年に通信教育事業を手がけるB社が起こした顧客情報の流出事件が挙げられます。
情報流出件数は3,500万件にのぼると言われており、広範囲へ被害が及びました。B社は損害賠償請求として、一顧客あたり500円の賠償措置をとり、情報を流出させた元業務委託先の社員は不正競争防止法違反の容疑で逮捕されました。情報漏洩は非常に広範囲へ被害を及ぼすため、
上記のように、事前の対策を入念に講じる必要があります。
コンプライアンスについてよくある質問
ここからは、コンプライアンスに関連したよくある質問として以下の3つをご紹介していきます。勘違いしやすい項目ですので、注意してください。
- コンプライアンスと法令遵守の違い
- コンプライアンスとコーポレート・ガバナンスの違い
- コンプライアンスとパワハラの違い
コンプライアンスと法令遵守の違いとは?
法令違反をした場合、結果的に法的な制裁・処罰を受けることになりますが、コンプライアンス違反をした場合、必ずしも法的な制裁・処罰を受けるとは限りません。
コンプライアンス違反がもたらす最も大きな影響は社会的評価の低下です。社会的評価・企業イメージに傷がついた場合、回復するには相当な期間と企業努力が必要となるため、捉え方次第では法令違反より重大なインシデントになります。
コンプライアンスとコーポレート・ガバナンスの違いとは?
コンプライアンスの意味には、社会的倫理や社会的規範・法令が関係していますが、コーポレート・ガバナンスはあくまで企業内の体制を管理することを指すため、コンプライアンスの中にコーポレート・ガバナンスがあるとイメージすると良いでしょう。
コンプライアンスとパワハラの違いとは?
- 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
- 業務の適正な範囲を超えて行われること
- 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
上記からわかるように、パワハラは精神的圧力や身体的暴力・いじめのことを指し、必ずしもコンプライアンス違反に該当するとは限りません。
一つ目の定義では、コンプライアンス違反とは言えません。しかし、3つ目の定義の場合、コンプライアンスの「労働問題」に該当します。
コンプライアンスとパワハラは同時に想起されやすい言葉ですが、全く別の問題ということを理解しておきましょう。
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