企業活動において頻繁に用いられる「コンプライアンス」という言葉。しかし、その意味を「単なる法令遵守」と理解している方も少なくありません。
実際の企業コンプライアンスは、法令遵守を出発点としながら、企業倫理、内部統制、ガバナンス、取引先管理、さらには社会的要請への適応までを含む、より広い概念です。
本記事では、以下の3つの内容に焦点を当てて解説していきます。
- コンプライアンスの本来の意味と定義
- 内部統制と取引リスクの2つの側面
- なぜ現代企業において重要視されるのか
目次
コンプライアンスに求められる定義は単純な法令遵守ではない
企業に求められるコンプライアンスは、条文を守るという形式的な法令遵守にとどまりません。法令の趣旨を理解し、社会的信頼を損なわない経営を行うことまで含めた概念です。
すなわち、「違法でなければ問題ない」という発想では不十分であり、社会規範やステークホルダーの期待に応える姿勢こそが、現代型コンプライアンスの本質といえます。(※1)
企業コンプライアンスとは、法令遵守はもちろん、社則の遵守や企業倫理、持続可能な未来を目指す社会貢献、そして社会倫理まで、非常に広い範囲を含む考え方です。
その根底には「正しい自由競争」による「クリーンな経営活動」という、社会が企業に求める不正のない姿があります。
企業に求められるコンプライアンス
企業コンプライアンスとは、法令や社会規範を遵守して、社会倫理に照らし合わせてより良い企業活動のあり方を目指す考え方です。
商法で定められている「独占禁止法」や「不正競争防止法」などの企業の自由競争に対する不正を監視する法令を遵守するだけでなく、反社会的勢力の排除や環境問題への取り組み、地域社会への貢献など、社会規範に従って公平公正に運営され、企業活動の結果が社会に還元されることを意識する必要があります。
コンプライアンス違反は、業法違反や粉飾決算、各種の偽装などの法令違反はもちろん、環境問題の軽視や社会貢献に対する体勢、ライフワークバランスの軽視など、企業体質にまで踏み込んで判断されるため、多くの企業で広範の意味でのコンプライアンスを徹底しています。
内部統制としてのコンプライアンス
内部統制とは、企業活動を適正かつ効率的に遂行するための統制システムを指します。単なる社内ルールの集合ではなく、以下の4目的を達成するための仕組みです。
- 業務の有効性・効率性
- 財務報告の信頼性
- 法令遵守
- 資産の保全
この枠組みの中で、コンプライアンスは中核的役割を担います。社内規程、職務分掌、監査体制、内部通報制度などが整備されて初めて、実効性のある内部統制が構築されます。(※2)
企業の内部統制とは「企業の事業活動に関係しているすべての従業員が遵守するべき社内ルールや仕組み」を意味します。コンプライアンスを強化するためには、この内部統制の徹底が必要不可欠になります。
コンプライアンス意識を全社員がしっかりと持ち、それに沿った行動を取るためには、以下の5つの要素が必要です。
- 根拠ある社内ルールの説明と理解の徹底
- システム面での社則遵守の仕組み
- 円滑な情報伝達の仕組みづくり
- 定期的なモニタリングによる内部統制の監視
- ITへの対応とシステムの強化
社内ルールについて、ただ決まっているから守るだけという考えと、どのような根拠があるのか説明し、それを理解した上での遵守では、コンプライアンスとしての意識がまったく異なります。
また、ルールに沿ってシステム面も改善することでより遵守しやすい環境づくりを行い、適切な内部統制の情報伝達と、定期的なモニタリングによって内部統制がきちんと機能しているか監視することで、社内のコンプライアンスが徹底されます。
企業倫理やハラスメント対策、社員の法令遵守意識など、社内におけるコンプライアンスは、適切な社内ルールによる内部統制によって守られます。
取引リスクの面でのコンプライアンス
社外におけるコンプライアンスは「取引リスク管理」の側面を持ちます。具体的には、
- 反社会的勢力の排除
- 与信管理
- 贈収賄リスクの回避
- 制裁対象者との取引防止
などが含まれます。特に反社会的勢力との関与は、契約解除・行政処分・金融機関取引停止などに発展する重大リスクです。そのため、取引開始前および継続的なモニタリングが不可欠です。(※3)
コンプライアンスの遵守は主に以下の4つの項目によって行われます。
- 信用調査(与信調査)を行う
- 万一リスクが発生した場合の対処を社内で共有し、徹底する
- 問題発生に関する情報提供のフローを作る
- 関係各所と連携し、速やかに対処する
取引においてもっとも大きなリスクは、反社会的勢力の存在です。反社会的勢力と取引関係になってしまうことは、大きな企業不祥事となり、場合によっては企業生命が絶たれてしまいます。
そのため、企業は取引を始める際に相手企業に対し、反社会的勢力との関与がないかを調べる反社チェック(コンプライアンスチェック)を徹底して行っています。
一例として、新聞や雑誌の過去記事やWeb情報、官報などの公知情報の収集と併せ、信用調査会社に依頼して調査することによって、可能な限り反社会的勢力との接触を減らし、リスクを回避しています。
しかし一方で、暴力団対策法などの施行により、暴力団を始めとする反社会的勢力は企業への関与を巧妙化させました。
フロント企業(反社会的勢力が隠れ蓑とする企業)だけでなく、一見経歴に問題がないが実は反社会的勢力とつながりがある人物を人材として送り込むなど、さまざまな方法をとるため、反社チェックを徹底していても完全にリスク回避はできません。
そのような状況において、もし反社会的勢力と関わりを持ってしまった場合、速やかに報告し、社内で情報を共有し、徹底して毅然とした態度で応じ、警察など関係各所と連携して対処する一連の対応を社内の取り組みとして行う必要があります。
また同時に「これくらいならいいだろう」「バレなければ大丈夫」という法令軽視の考えや「もしもバレてしまったらクビになる」「そんな気がするだけで報告して間違っていたらどうしよう」という報告をためらう考えは間違っているということを社内に徹底教育することも、社外の取引リスクに対するコンプライアンス意識といえます。
フルセットコンプライアンスという考え方
桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター長のほか、「ビジネスコンプライアンス検定」監修職などを務めた郷原信郎氏が提唱する「フルセットコンプライアンス」という概念では、コンプライアンスを“法令遵守”から“社会的要請への適応”へと拡張して捉えます。
これは、法律の最低基準を守ることではなく、
- 消費者の安全期待
- 投資家の透明性要求
- 社会からの説明責任
といった、明文化されていない要請にも応える姿勢を指します。
社会的要請とは「偽装をしないで安全な商品・食品を供給して欲しい」「良質な情報を提供して欲しい」「安全に運行して欲しい」などの、利潤追求だけでなく社会からの潜在的要請や期待のことを指します。
社会的要請への適応を謳う理由には、法令は最新の社会情勢を反映して最適化されているわけではないため、それによる司法も万能ではないと考え、法令遵守だけではなく現在社会に求められている企業のあり方を模索し適応していくことがコンプライアンスであるという考えがあります。
また、法令を単純に条文通りの解釈で遵守することで法の抜け穴を使うことや、過剰に厳しく解釈することは、社会倫理に応じるべきコンプライアンスとしてはかえって背いていることになると考えています。
コンプライアンスが重視されるようになった3つの背景

企業コンプライアンスが本格的に重視されるようになった背景には、次の3要因があります。
- 規制緩和による企業責任の拡大
- 国内外で相次いだ大型企業不祥事
- 会社法・公益通報者保護法などの制度整備
これらが「企業は自己責任で統制を構築する存在」であるという認識を確立させました。(※4)
規制緩和政策と企業責任の増加
1980年代から内需主導の経済成長政策として、民間企業の自由参入や競争促進のために取られたさまざまな規制撤廃と自由競争の強化が行われました。
この規制緩和によってより自由な競争による成長を企業間に求めるため、三公社(電電公社、専売公社、国鉄)が民営化され、NTT、日本たばこ産業、塩事業センター、JRとなりました。
自由競争によって企業活動が活発になった一方で、急激な成長の中で不祥事が相次ぎ、企業は自身の経済活動にも強い責任を問われるようになりました。このため、政府は2000年に入ってから行政改革大綱のなかで以下の内容によって「企業の自己責任体制」を明確に示しました。
III 規制改革の推進-(1)イ「策定にあたっての考え方」 規制改革の推進に当たっては、例えば、原子力、自動車、乳製品、院内感染、遺伝子組み換え食品等に対する国民の不安、疑念の蔓延状況にかんがみ、特に国民の安全を確保する見地から、企業における自己責任体制を確立し、情報公開等の徹底を図るものとする。
この項によって、企業は各自、自己責任体制を確立し、情報公開の徹底を求められるようになったのです。これが今日の企業のコンプライアンス意識の基礎ともいえる部分となりました。
相次ぐ企業不祥事の増加
急激な高度経済成長をむかえた1990年代から2000年代にかけて、日本国内に限らず全世界的に大企業による大型の不祥事と倒産が相次ぎ、社会的な問題として大々的に報道されたことにより、企業のコンプライアンス意識が内外から強く重視されるようになりました。
特に三菱自動車によるリコール隠しや牛肉偽装事件、マンションの構造計算書偽造問題など、国民生活の安全に大きな影響を及ぼす事件が多発し、社会が企業コンプライアンスを重視した経営姿勢を求めるようになったのも、要因の一つとして挙げられます。
アメリカでも総合エネルギー取引やITビジネス事業で屈指の規模を誇るエンロン社が、粉飾決算によって倒産するなど、大企業の不祥事による倒産が相次ぎ、世界経済にも影響を及ぼしたことから、全世界的にコーポレートガバナンスを重視する姿勢が求められるようになりました。
法令強化によるコンプライアンス意識への注目と、重視した経営方針への転換を求める政府や国民の意識も、企業コンプライアンス重視に大きく影響しています。2000年に閣議決定された「行政改革大綱」の方針をもとにして、さまざまな関連法も現代社会の求める公正公平な自由競争に則して改正されました。
その中で、相次ぐ国内外の企業不祥事や、UEの「企業の社会的責任(CSR)に関するグリンペーパー」の発表などの海外での動向を踏まえ、コンプライアンス体制の確立を意識した法改正が進められました。
2006年4月に施行された公益通報者保護法では、企業内部の不正を告発するいわゆる内部告発を行った公益通報者に対し、企業は不当な解雇や転属などの不利益な扱いを行わないよう求めています。
また同年5月に行われた会社法改正によって、「資本金が5億円以上、または、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部の合計額が200億円以上である株式会社」を大会社と扱い、以下の法によって適正な業務の遂行ができる体制を構築することが義務付けられました。
このような会社法の改正や公益通報者保護法によって、企業コンプライアンス重視の姿勢を求める世論がより強くなり、また各企業も法令を遵守するためにコンプライアンスを強く意識した企業経営を行うようになりました。
会社法の改正とは
相次ぐ大型の企業不祥事に対する企業の公正さを求める世論が高まる中、政府は大会社と定めた企業に対し、「企業集団における業務の適正を確保するための体制」を義務付けました。
これによって、企業は法令遵守マニュアルを作成したり、従業員の相互間における適切な監督体制の構築や、倫理規程の作成、コンプライアンスに関する研修体制と従業員教育の徹底、内部通報制度の整備など、さまざまな体制づくりを行うことになります。
大会社に含まれない企業でも、コンプライアンス意識を重視した経営体制として同様の組織体制を整える企業は少なくありません。
公益通報者保護法とは
2000年代初頭に相次いだ国民生活に影響を及ぼす様々な不祥事が、内部告発をきっかけに明るみに出たことから、「内部告発を公益通報という手続に整理し、公益通報をした労働者を保護することにより、公益を図るための内部告発を確保し、企業不祥事による国民の被害拡大を防ぐことを目的としたもの」として制定されました。
通報者を法的に保護することによって、公益性の高い通報をためらわない環境づくりをすることで、企業にも自浄効果を与え、企業不祥事を起こさないようコンプライアンス意識を高めることを狙いとした法律です。
この法律をもとに、企業内部でも告発者を保護するための仕組み作りを行い、不正の告発を受け付けて積極的に問題解決に取り組む姿勢を持つ企業も現れています。
コンプライアンスに対する企業がするべき取り組み
コンプライアンスに対して、企業としての取り組むべきコンプライアンスマネージメントは、法令遵守の他に以下の4つが挙げられます。
- ハラスメントや内部告発の窓口を設け、周知する
- コンプライアンス規定を定め、コンプライアンス監査を実施する
- 社内のコンプライアンス教育の徹底
- 反社チェックや信用調査を行い、反社会的勢力に対する対応を社内で一貫する
ハラスメントや内部告発を受け付ける窓口を設ける
窓口を設けて存在を周知し、万一なんらかの問題やトラブルが発生した時にためらわず相談したり報告できる環境づくりが大切です。
匿名でも受け付け、報告者は必ず保護することを明確な姿勢として打ち出すことで、窓口はあるが言い辛いという状況を避け、適切な情報提供と共有、そして適正な相互監視環境を構築します。
特にハラスメントは社内においてもっとも注意して対処すべき問題です。人間関係が発生する以上、摩擦からなんらかの問題が生じることは避けられません。しかし、ハラスメント問題を放置せず適切に対処するという経営者の毅然とした姿勢を示すことが重要です。
パワハラやセクハラ、内部に対する相談窓口を設け、社内の問題をしっかりと解決していくことは、社員を大切にするという姿勢だけでなく、企業全体の自浄効果に繋がり、不祥事を未然に防ぐシステムとして機能します。
コンプライアンス規定を定め、コンプライアンス監査を実施
コンプライアンス規定や倫理規程を定めてマニュアルを作成し、配布して、コンプライアンスに関する研修体制と従業員教育の徹底することにより、社内で統一したコンプライアンス意識を持つことができます。
自社がコンプライアンスとして何を考えているのかを知り、全社で内容を把握していることは、コンプライアンス意識の徹底として重要なポイントです。
また、社内に事業とは半独立したコンプライアンス監査の機関を設定し、定期的にコンプライアンス監査を実施する必要があります。
適正にコンプライアンスに則って企業活動が行われているか、不正な行動を隠蔽していないかを調べ、報告を受ける窓口が機能しているかを調査して、企業のコンプライアンス活動が円滑に行われているかを評価し、必要な場合はその是正を提案し、実施します。
社内のコンプライアンス教育の徹底
コンプライアンス規定をもとに、コンプライアンスに関する研修体制を整え、定期的に講習を行うことで、社員教育としてコンプライアンス意識を徹底することは、企業全体に法令遵守や企業倫理を浸透させるために有効な手段です。
コンプライアンスは最終的には企業に所属する従業員一人ひとりの意識のあり方です。コンプライアンスとはなにか、なぜ守らなければいけないのかを理解し、もし違反した場合に負うリスクを学ぶことで、全社の隅々までコンプライアンスの考え方を徹底します。
また同時に、万一の場合には速やかに申し出ることで回避されるリスクがあること、報告を匿名で受け付ける窓口があることをコンプライアンス教育とともに周知して、自浄効果を強化できます。
反社チェックや信用調査を行い、取引リスクを軽減する

取引先の反社チェックや信用調査は、取引におけるリスクマネジメントにつながります。取引開始前や、契約後も定期的に徹底した信用調査や反社チェックを行うことで、反社会的勢力と接触や取引先に生じた問題による取引リスクを軽減できます。
しかし、反社チェックも完璧ではありません。どれだけ徹底していても、ありとあらゆる手段を用いて企業から利益を掠め取ろうとする反社会的勢力は後を絶たないのです。
そのような時に、セーフティネットとして機能するのがコンプライアンス教育の徹底と、報告を受け付ける窓口の存在です。コンプライアンスに従って行動し、対処を社内で共有することで、反社チェックをすり抜けた反社会的勢力に接触されても毅然と関与を拒むことができます。
企業コンプライアンスは企業活動を守るための大切なもの
企業コンプライアンスが重視されるようになった背景と、現在企業が求められているコンプライアンスのあり方、そして企業がするべき取り組みについておわかりいただけたでしょうか?
コンプライアンスは、企業を「守るためのコスト」ではありません。企業価値を持続的に高めるための経営基盤です。
内部統制の整備と、取引リスク管理の両立があって初めて、企業は社会から信頼される存在になります。
特に反社リスクのように外部から侵入するリスクについては、継続的なチェック体制の構築が不可欠です。
コンプライアンスは法令遵守を含めて広義で社会倫理に沿って公正公平に企業活動を行うためになくてはならない考えです。同時に、万一違反した場合のリスクは大きく、倒産に繋がるケースも少なくありません。
コンプライアンスとは何か全社に理解を広め、徹底していくことが企業としての内部統制と使命であると同時に、取引リスクや反社会的勢力を社会から排除するためにしっかりとした反社チェックが大切です。
日常から社内で新聞や雑誌などの過去記事やWeb情報等の公知情報を検索し、反社チェックをこまめに行うことで多くのリスクを回避することができます。これらの日常的な反社チェックは反社チェックツールを活用することで、工数と経費を削減しながら実現することができます。

弊社のRoboRoboコンプライアンスチェックでは、検索情報の差分を検出したり、特許出願中の機能によって収集した情報をAIが判断して注目すべき情報を強調するので、自動的なチェックと目視のチェックがスムーズに行えるため、コンプライアンスマネージメントに寄与します。
【参考】
※1 消費者庁(企業の社会的責任関連)
※2 金融庁|内部統制報告制度
※3 警察庁|暴力団排除対策
※4 消費者庁|公益通報者保護制度

