与信管理実務の中で、「与信管理をもっと簡潔にできないだろうか」「与信管理をわかりやすくして共有する方法を知りたい」と考える与信担当の方も多いのではないでしょうか。
与信判断と管理は時に属人化してしまいやすい問題があり、また、与信管理の情報を共有するには情報量が多くてなかなか難しいという事情を抱えている管理部門も多数あります。
これらを解決するには、与信管理は評価を点数化するという方法があります。点数化の基準を統一して共有し、一定の期間毎に調査をやり直して情報を更新して、規定に従って信用度の変化があった場合は管理フェーズを速やかに移行することで、判断基準が属人化せずにリスク管理する手法です。
今回はこの点数化で意識したい3つのポイントと、管理のためのフローチャート作成について解説します。
目次
与信管理の評価を点数化する時に意識したい3つのポイント
与信管理には「取引規模に応じた継続的な情報収集」と「与信限度額と売上債権残高の比較」という2つの作業があります。大前提として「取引先について評価を行う」という業務があり、この評価をもとに与信限度額や売上債権残高の管理を行います。
「与信とは?企業にとって重要な与信管理についてポイントを解説」の記事では、与信の基本的な概要から与信管理までを網羅して解説していますので、あわせてご確認ください。
与信管理において評価をわかりやすく表示し、また管理フェーズが移行した場合に判断を素早く行うために、与信情報を点数化する手法があります。
点数化によって管理部門も営業部門も与信評価を視覚的に理解しやすく、信用度の変化があった時の管理フェーズの移行と管理が容易になります。
評価を点数化する時に意識しなければいけないポイントは以下の3つです。
- 評価ポイントを定め、点数化するためのマニュアルを策定する
- 倒産リスクを算出・評価し、点数化する
- 与信管理規定に沿った定期的な再評価を行う
それでは一つずつの要素について具体的に解説していきましょう。
評価を点数化し管理マニュアルを作成する
信用調査会社のレポートと自社内の評価基準をあわせ、いくつかの評価ポイントを定めて点数化を行うためのマニュアルを作成します。
このマニュアルには信用調査会社の評点だけでなく、自社が取引上で重視するべき要素などを盛り込み、現実の取引に則した点数表を作る必要があります。
加減点の基準を明確化し、誰が評価を行っても誤差範囲に収まるように評価採点方法を設定することで、取引先に設定された点数に客観性が加わり、与信管理から属人性を排除できます。
また、点数化によって管理部門と営業部門が同一の基準で取引先の評価を共有できるため、与信管理に必要な情報の共有と反映もスムーズになり、より安定した与信管理が進められます。
点数化において注意するべきポイントは、企業の持つ支払い能力に限らず、取引規模や期間、重要度なども評価のポイントに加えることです。
企業規模が小さく、通常は取引額としては重要性がない取引先であっても、営業戦略上で重要な場合があります。このような特殊なケースも評価に反映しやすいのが自社による点数化のメリットといえます。
同時に、点数化によって取引先評価の可視性が向上するため、点数評価に拘泥しやすい傾向があることにも注意が必要です。指標は一つにせず、複数の視点を交えて取引先を評価しなければいけません。
評価の点数化に加え、インターネット上のさまざまな情報を収集して与信管理に役立てる必要があります。
RoboRobo与信チェックサービスは、インターネット情報を監視し、与信に影響を与えるような情報を発見すると自動的にアラートを送り、動向に注目するよう注意を促す機能を搭載しています。
倒産リスクを評価する
信用調査会社各社は自社の収集している情報をもとに、独自の方法で今後1年以内の倒産確率を企業評価として提供しています。これをもとに、倒産リスクを評価し、取引先企業の格付けを行います。
倒産リスクは信用調査会社が過去の倒産例をもとに、企業評価を簡潔に倒産に直結するリスクとして算出したものであるため、企業レポートを読み解く必要がなく、与信管理においては非常に簡潔で有用な数値です。
倒産リスクは2%を超えると、常に債権管理において注意が必要になると言われています。1%前後が平均水準であるため、それ以下と評価された企業は将来的、あるいは直近の支払い能力に懸念があると判断してよいでしょう。
逆に1%未満であれば支払い能力に問題がない、あるいは支払い能力が高い企業として高く評価します。
倒産リスクをもとに格付けを行い、格付けに則って与信限度額に対する倍率を設定します。平均水準よりも倒産リスクが高い企業であれば0.9~0.5、倒産リスクが低い企業であれば1~1.2程度の係数を掛けます。
この係数については、自社の取引規模なども鑑み、現実に即した取引額になるようしっかりと協議を重ねて決める必要があります。
与信の管理規定に沿って定期的に点数の再評価を行う
与信は取引が継続され、取引の規模や状況が変わることによって変化します。そのため、一度点数化しても、定期的な点数の再評価と、点数の変化による扱いの変更が必要です。
与信管理規定に沿って定期的に管理部門と営業部門で情報交換を行い、再評価によって与信限度額が変更された場合、速やかに取引に反映します。
一度設定した与信枠を再評価せずに放置することは、取引規模の拡大を阻害して機会損失を招いたり、逆に債権未回収のリスクを抱え込むことに繋がります。
また、与信の再評価によって相手先企業の経営状況に懸念が生じた場合、与信管理フェーズを「問題案件管理」または「事故管理」へと移行する必要があります。
与信管理の3つのフェーズ
与信管理には以下の3つのフェーズが存在し、それぞれのフェーズにおいて適切な判断と評価が必要です。
取引先企業の評価を点数化しておくことで、信用度に変更があった場合に判断基準に迷いやブレが生じず、フェーズ移行がスムーズに行われて未回収リスクを下げることができます。
では3つのフェーズについて、簡単にどのような処理を行っているのか触れていきましょう。
1.与信判定フェーズ
契約前の与信判定のフェーズです。この段階では相手先企業が反社会的勢力ではないことなどを調べる反社チェックや、与信を判断するための信用調査を行います。
信用調査会社のデータベースから企業情報を集めたり、倒産リスクや企業規模、定性データの分析などをもとに与信限度額を設定し、取引に必要な契約を進めていきます。
取引の規模によっては探偵会社なども利用して更に深い情報を調査することもありますが、小規模な取引や一度だけの取引の場合は、反社チェックツールなどを使った一次スクリーニングと企業概要データからの与信判定となります。
2.途上与信フェーズ
契約後、取引を開始してから行う与信フェーズです。取引の規模や売上債権残高と与信枠の比率を鑑みながら、現実の取引に則して与信を再判断します。
この段階で順調に取引が成長している場合、より大きな与信枠を設定するために再評価を行い、与信限度額を拡大します。一方で懸念事項が生じている場合、問題案件管理または事故管理へと管理フェーズを移行します。
途上与信の再評価には、同時に反社チェックも必要です。取引開始時点では問題がなくても、長期の取引関係が続く中で相手先企業に問題が生じているケースや、初期の調査では判明しなかった問題が浮上することも少なくありません。
3.問題案件管理・事故管理フェーズ
取引を行う中で経営状態に懸念事項が生じたり、支払に問題が発生した取引先の管理フェーズです。
途上与信フェーズで支払いが焦げ付いたり、与信管理ツールのアラートなどで倒産リスクが高まった場合、速やかに与信フェーズを移行して、取引関係の解消や債権回収の処理を行う必要があります。
問題案件管理の段階ではすぐに取引を停止する必要はありませんが、与信限度額を縮小しながら慎重に経営状態を監視し、万が一倒産リスクが高まったと判断した場合は速やかに事故管理フェーズへと移行します。
事故管理フェーズでは、速やかに取引を停止し、債権の回収に移行します。債権回収に関しては素早く動く必要があるため、法務部と相談の上、顧問弁護士などと相談してしかるべき処理にあたってください。
尚、与信管理は取引を開始する前に行う与信判定以降で、契約締結後にも定期的に再評価が必要です。
与信の再評価には取引規模の変化や売上債権残高の管理を含め、相手先企業に関するさまざまな情報とアラートをいち早く受け取り、的確に処理する必要があります。決算などの情報は勿論、近年ではインターネット上の噂や口コミなども収集すべき情報として注目されています。
インターネット上の口コミが倒産情報の前触れであった一例として、晴れ着販売・レンタルを行っていた業者が成人の日に突如営業を停止した「はれのひ事件」が挙げられます。同社には利用者からの悪い口コミがインターネット上で集中しており、サービスの品質低下などの倒産予兆が見られていました。
弊社のRoboRobo与信チェックサービスは、このようなインターネット上の情報を収集し、与信に影響を与える情報を発見した場合には自動的にアラートを発して注意を促すシステムになっています。RoboRoboコンプライアンスチェックと併用することで、万一の時の情報が素早く獲得でき、リスクヘッジに繋がります。
与信管理のフローチャート
与信判断の基準がブレないためには、点数の変化やアラートによって与信管理のフェーズが変わった場合のフローチャートを策定し、社内共有する必要があります。
営業部門も管理部門も与信管理規定をしっかりと守りながら、フローチャートに沿って行動することで、どちらかの行動判断を待たなくても速やかな判断を下せるようになります。
フローチャートは各社の業務の流れに沿ったものを作成する必要があるため、各部門から情報を収集し、与信管理のフェーズ移行によってしわ寄せを受ける部門が出ないよう充分に競技しなければいけません。また、定期的にフローチャートを見直し、実際の運用で問題が生じていた部分は適宜是正します。
ではフローチャートを整備する時に注意しなければいけない3つのポイントについて見ていきましょう。
与信管理のチェックリストを作る
定期的に与信の再評価を行うため、必要となるチェックリストを用意して採点を行います。前項でも説明したとおり、点数化は属人性の排除でもあるため、誰が行っても基準がズレないようにチェックリストと配点表を作成しなければいけません。
フローチャートの進行に沿って与信管理のフェーズごとに必要となるチェックリストを作成し、各フェーズで明確化した評価基準を設定します。
また、チェックリストと進行を営業部門にも共有することで、現在の与信管理がどの段階にあるのかを営業活動に反映します。事故管理となる場合、営業部門も事前に状況が判断できることで、リスクを軽減できるメリットがあります。
フローチャートから外す重点取引先の設定
営業戦略上、取引規模や企業規模を基準にした通常の与信判断では与信限度額が低くなるため、取引額が与信限度額をオーバーしてしまうが、取引を行う必要がある企業は存在します。
そのため、全てをフローチャートに沿って処理できないこともあることは事前に共有しなければいけません。また、対象となる企業のリストは重要事項として共有します。
そのような取引先は重点取引先として設定し、フローチャートの処理から外して別途の管理を行います。
問題案件管理・事故管理が発生した場合のフローチャート
もし信用度の変化が発生して、問題案件や事故案件になった場合、速やかに適切な処理を行わないと、取引先が代金を支払えず、債権が回収できないリスクを抱え込むことになります。
問題案件管理、あるいは事故管理となった取引先に対する処理は、「与信の引き下げ」または「債権回収」の2つになります。
与信の引き下げ交渉
支払い能力や経営状態に懸念が生じた企業に対しては、問題案件管理を行います。この段階では、与信限度額の引き下げや取引規模の終章によって、最悪の場合のリスクの縮小に努めます。
管理部門がおこなった与信の再評価をもとに営業部門が与信の引き下げ交渉を行うことになります。この際、管理部門は営業部門と協力して、交渉に必要となる資料の用意をしなければいけません。
また、相手先企業が交渉を拒否するなど、与信の引き下げが難しい場合、高リスク案件として判断し、速やかに事故管理経とフェーズを移行して取引を停止する判断を行う必要があります。
債権回収にはスピードが大切
事故管理となった取引先からの債権回収は、他の債権者に先んじて動く必要があるため、なによりもスピードが大切です。倒産など事故になってからの債権回収では、出遅れると回収できる債権の取り分がなくなることもあります。
可能な限り事故管理になる前に倒産情報をキャッチしなければいけないため、問題案件管理に移行した段階から、与信管理に関係する情報収集とアラートツールを駆使して注意しなければいけません。
与信管理は点数による基準でスピード感を持って行う
与信管理の基準を明確化するには点数化が必要であり、総合的に点数を評価することや、定期的な見直しが必要なこと、フローチャートを作ってそれを遵守することが大切であることを理解していただけたでしょうか。
与信管理は債権未回収のリスクを回避するためには、スピード感を持って行わなければいけません。そのためには、与信管理ツールなどの活用でインターネット情報を監視し、いち早く倒産の予兆を掴む必要があります。
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弊社のサービスが貴社の与信管理の一助になれば幸いです。